【第XX回 SMAP全体会議】
「それでは歌っていただきましょう!」
「えっ!?」
1月31日、集合時間に遅れる安定の挙動で会議室のドアを開けた慎吾の耳に、中居の声が飛び込んできた。
「香取慎吾で、『Anonymous』!」
「いやいやいや!」
後ずさる慎吾に、木村がマイクを手渡す。インストが流れ出し。
「るくあっぷ…、いや!覚えてないし!!」
その慎吾の手から、木村はマイクを奪い取り。
「I love〜♪」
WONKパートを歌いだした。
「なぜ!なぜ歌える!」
「おまえ、木村を誰だと思ってる。天下のキムタクだぞ」
『なー』『なー』と言い合う上二人を、慎吾は忙しさのあまりによる死んだ魚の目で眺める。そして、はっ!と思いだした。
「待って。この既視感、何…?かつて、同じようなことが、あった…!?」
「おまえが去年も誕生日月にアルバムとか出してたんだよ!自分の誕生日近辺でリリースって、なんだおまえ、アイドル気取りか!」
「アイドルなんです!パーフェクトビジネスアイドルなんですー!」
去年の誕生日は、10%を歌え、という絡まれ方をしていた慎吾は、パーフェクトビジネスアイドルを強調。
「さすがアイドルだよ、知ってる?こいつこないだライオンと綱引きしてたの」
「見た見た!アイドルぽかったー!」
くすくすー!と吾郎が笑う。
「でも、それだったら、大食い対決出た方がよかったのになぁ」
AnonymousのWONKパートを歌い終えた木村の言葉に、慎吾を除く全員がうなずいた。
「でも、大食いはアイドルぽくないんじゃない?ライオンの方がアイドルっぽいよー」
「つよぽんのアイドルらしさって、なんなの…?」
「だって、やっぱり動物は鉄板じゃん!」
「せめて、鷹の方にしてくれない…?」
「鷹と走るのな。確かに一番アイドルぽかったと思うんだけど、あれなー、そこそこいい勝負になったのが、イメージダウンだよなー」
中居が眉間にしわを寄せながら、首を振る。
「いい勝負になったのに!?」
「香取慎吾は動けるデブじゃないんだよなぁ」
「そんなことないし!」
「もっと、圧倒的に負けて、鷹の速さを見せつけて欲しかったんだよなぁ」
「鷹の速さ強調には、一緒に走る慎吾の速さ必要だから、ここの見せ方はそこそこいけたんじゃないかな」
「あー、そうかー…」
「ねぇ!上二人!どこ目線!?プロデューサー目線!?」
「まま、慎吾さん、お座りになって」
会議室に入ったまま、立ちっぱなしだった慎吾に、吾郎が椅子をすすめる。
会議室の、会議机の、お誕生日席に。
「普通こういうのって机2本合わせて、お誕生日席じゃない?会議机1本のお誕生日席って、なんかさみしくない?」
「おまえがデブだから、狭く感じるんだよ」
「デブじゃないわー!」
「ささ、慎吾さん、お誕生日おめでとうございます」
「うわー、綺麗ー…」
真っ白なバースデーケーキには、薔薇の花びらがひらりと落とされていた。
「あまりに綺麗にできたので、ろうそくとかは挿してません」
微笑みながら吾郎が宣言する。
「誕生日!誕生日ケーキには、ろうそく!」
「44本も挿したら、ケーキの表面、なくなります」
「ていうか、吾郎ちゃんが作ったの!?」
「そりゃ、稲垣さん、ヒマでヒマでしょうがないから」
「そんなことない!レギュラー生ラジオとかもあるし!」
「稲垣さん、こまっしゃくれたケーキでも選んでって声かけたら、じゃあ作るわって言ったじゃん。ヒマだからって」
「こーとーばーのーあーやーでーすぅぅーー」
「和むなー、このマングースとマングースの小競り合いみたいなやつ…」
じーん。
胸に手を置いて、慎吾は中空を見つめる。
「ハブとマングースじゃなくて?」
「つよぽん。この二人は、双子の姉妹みたいなもんだよ。同じものを渡さないと、絶対!モメるんだよ。どっちがハブだ、どっちがマングースだっつって!」
「ハブ」
「絶対ハブ」
もちろん、中居と吾郎はお互いを指さしてそう言っていた。
「慎吾、これ、誕生日プレゼント」
ハブはどっちが選手権に関わらず、木村からプレゼントを渡されて、信じられるのはこの人だけだという心持ちになる。
小さなケースを開けると、中には一本の鍵があった。
「これ?」
「あちらごらんください!」
木村が指さした先には、パーティションが。
「え、何!」
「どうぞ、ごらんになって」
促されて、なんだろなんだろ!とウキウキ見に行った慎吾は、パーティションの陰にあったものを見て、膝から落ちる。
「電動バイク…!」
「今お忙しいでしょうけど、暇になったら充電さしてもらいながら旅に出たらいいんじゃないかなって」
「なんという悪ふざけ…!」
後から、いや、剛とツーリングとかもできるし!とフォローされても、誰も信じられないと膝を抱えて丸くなる慎吾の心は開かなかった。
「ケーキ美味しいー、でも、ビールと合わなーい!」
「もちろん、しゅうまいもありますよ!金麦さん!」
そんな慎吾の心は、金麦ザ・ラガーで簡単に開く。
「元金麦さんさぁ」
あつあつしゅうまいをサーブした木村に、中居は言った。
「慎吾への、金麦さんバトンタッチありがとうなぁ」
「え?」
「金麦さん、世襲制だろ?」
「世襲制ではないし、多分、世襲制って、お前が考えてるのと多分意味違う」
「金麦さんが缶を置く時、それは、次の金麦さんを指名した時だもんな」
「缶を置く、山口百恵がマイク置くイメージ!?」
「木村金麦さんが、慎吾金麦さんを指名。じゃあ、慎吾金麦さんは、剛金麦さんを指名だな」
「できるならやるけどー」
ごっきゅごっきゅと秒で一缶あけ、慎吾はにこにことしゅうまいを頬張る。
「で、剛から僕に、僕から木村くんに戻せばいいんだよね」
「ほう?」
マングースVSマングース第2弾を、ほっこりした心持ちで眺める慎吾だった。
『人間、飲んで食ったら大満足だね』
2021・1・31
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