【第?回 3人と豪華プライベートディナー】
「ちょっと、緊張しない?」
先を歩く吾郎と剛に、慎吾が声をかける。
「えー?何がー?」
「つよぽんには聞いてない。ごろちゃん、緊張しない?」
「うーん。まぁ、どんな人か解らないからねぇ」
2019年1月1日のななにーでプレゼントされた、3人ご豪華プライベートディナーは、どうせならということで慎吾の誕生日、1月31日に設定されていた。
都内某ホテルの素敵レストランの個室にて、当選者の方をお迎えするために3人は歩いていたのだが、慎吾が二人を追い抜いて、部屋の扉に手をかけた。
「今日、何食べられるんだっけー…」
と、引くタイプのドアを開き。
閉めた。
「え?」
慎吾がドアを開けたら、そこから先に入ろうとしていた吾郎が、瞬きする。
「今の何〜?」
剛はケラケラ笑う。
「あれみたい!格付けチェックの浜田さん!」
「あぁ、正解の部屋を開けたと見せかけて、間違いの部屋をちょっと開けるやつね」
「あれ、面白いよねぇ!吾郎さん出たらいいのに」
「えーー、やだよー」
「でさぁ!ワインのうんちく言うだけ言って、間違えるの!」
「なんでそっちを期待するんだよっ!」
「…間違えた」
「間違えた?」
ドアをノブを持ったまま、強く押しつけている慎吾が、もう一度「間違えた」と呟く。
「でも、個室なんか一つしか…」
「間違え…,うわっ!」
そのドアが、内側から開けられそうになり、慎吾は全体重をかけてそれを阻む。
「何っ?中に誰かいたのっ?お客さん、まだでしょっ!?」
ガチャガチャというノブの音に、思わず慎吾の背中に吾郎と剛が隠れる。
「怖い怖い!」
ドアノブの音は大きくなる。慎吾の全体重をかけているはずなのに、内側からドアが開こうとしている。
特に、中に何がいるか解らない吾郎と剛にとっては恐怖でしかない数秒の後。
「お客様、どうかされましたか?」
落ち着いた声が背後からかかる。
「た、助けてくださ…っ、きゃーっ!」
「きゃーって何急に!ごろちゃんっ!」
振り向いた慎吾が、きゃー!と声を上げた。
「あっ、マスカレードホテルの人…!」
吾郎の後ろに隠れていた剛が一番近くになった訳だが、声をかけてきた人物は、マスカレードホテルの人、こと、潜入捜査中の新田刑事。
の、衣装を着た木村拓哉。
「ってことは、中にいるのは…っ!」
「さっさと入ってこいっ!」
慎吾をはね飛ばす勢いでドアを(おそらく蹴り)開けて、中居正広が仁王立ちしていた。
「なんで」
「何が」
「ねぇ、なんで…?」
当選者の人といい距離感が作れるかな、と、円卓が用意されており、席は四つ。
当選者席に中居が座り、時計回りに吾郎、剛、慎吾と並ぶ。
「当選者の人、どしたの…?」
「え?」
中居がにっこり笑う。
「聞きたい?」
「怖っ!何したの!当選者の人殺したのっ!?」
「殺すか!」
「じゃあ、何したの…!」
「ほんとに聞きたい?」
小首傾げながらのにっこり笑顔に、慎吾の体温は体感で10度くらい下がった。
可哀相に。きっと殺されたんだ。当選者になったばっかりに…!
「明日来られますよ?」
ホテルマンの制服で、それぞれのグラスにまずは、と水を注ぎながら、新田風木村がホテルマンバージョンで言った。
「明日っ?」
「明日が本当のディナーパーティーですね」
「どゆことっ?」
慎吾の勢いに、木村も中居と同様、にっこり笑顔で答える。
「あちらのお客様が、当選者様と、スタッフの方々の横っ面を札束でひっぱたいて、日程を一日増やさせました」
「あっはっは。やだなぁ。札束ってほどの札束でもなかったよー」
「そうでしたね、お客様」
「えーーーー!!!」
「お飲物はいかがいたしますか?」
「こいつらのおごりだから、何でもいいけど、一番高いやつ」
「承知いたしました。みなさまは?」
「一番高いやつって、何?」
「ごろちゃん、普通に興味もたない!」
「中居様が、全然好きじゃなさそうな、ビンテージのワインでございます」
「うん、俺、全然好きじゃない」
「じゃあ飲まないでよ!」
「香取様、稲垣様はオールフリーで?」
うっ!と苦しい顔になった慎吾だが、今日は完全プライベート、ここでスポンサーに気を遣う必要はない!と。
「プレモルで…!」
「よっ!さすがパーフェクトビジネスアイドル!」
「草なぎ様は、昆布ポン酢で」
「飲めないよ!」
なんだかんだ、騒いだあげく、結局全員プレモル、という結果に収まり、一度引っ込んだ木村が再度登場した時。
木村は、バースデーケーキが乗ったワゴンを押していた。流れる曲は、ベタ中のベタ、スティービーワンダーのハッピーバースデー。立ち上がった慎吾は、もちろん周囲のカメラを確認する。彼らが何十年も誕生日に経験してきたいつものやつ。
「香取様、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう…」
「こちら、中居様がデコレーションしたバースデーケーキでございます」
「下っ手!!」
「失礼なことを言うな。慎吾の顔を描いてやったのに」
「ペンで描いても下手な人が、デコレーションで俺の顔とか絶対無理じゃん!人類じゃないじゃん!」
「パーフェクトビジネスアイドルの内面を遺憾なく発揮できたと自負している。なんならヤンチェグッズに提供してもいい」
「やべーショップになるわ!」
「今だってすぐに売るもんなくなるやべーショップだろうが!」
「それは言わないでー!」
「じゃあ、せっかくですから、みなさまでケーキカットされますか?」
「俺の顔をー!?」
それぞれにナイフを渡していく新田風木村に中居が言った。
「せっかくだからホテルマンさんも一緒に」
「そうですか?恐れ入ります。お仲間にいれさせていただいて」
そうして5人で乱暴にナイフがいれられたケーキは、デコレーションはともかく、味はとても美味しい、木村作、フルーツたっぷり生クリームたっぷりケーキだった。
「慎吾お誕生日おめでとー」
「ほんと怖い…この人たち何するか解らない。怖い…」
そして何が怖いって、剛が仕掛け人の一人として、上二人から聞かれるがままに日程をばらしていたりしたのだが、本人にその自覚がまったくなく、なんで日程とか場所とか、知ってんだろーと思いながら、美味しく食事をしていることが怖い話であった。
2018・1・31
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