木村拓哉様

 

【第三回 SMAP全体会議】

「あ、どうもどうも、すみませんね、ありがとうございますね、いらっしゃいませ、いらっしゃいませ」
2017年11月13日。
指定された会議室のドアを開けた木村は、満面の笑顔の慎吾に迎えられた。
「おー。あ、俺最後?」
「そうそう。はいこちらに」
吾郎が、会議室には立派すぎる椅子を引いて、木村を手招きする。
横長の会議机の端、いわゆるお誕生日席に置かれた椅子に素直に座った木村は、何?と、こっちを見ている4人に気づいて首を傾げる。
「どした?」
「前回色々ありまして。もうなんか、サプライズとか必要ないな、何にでもネタや、オチを求めるのは現代人のよくないところだ、と思いまして」
「前回…」
あの後、フルーチェがすぐに見つからず、都会のおしゃれスーパーを呪った身としては深く頷くところである。
「つまりこれは」
「そうです。木村くんのお誕生日です。おめでとうございまーす!」
「あぁ。言っちゃうんだ…」

Happy,Happy Birthday♪ Happy,Happy Birthday♪ 
生まれて来たことを君が♪ かなしまないように♪

SMAPの「Happy Birthday」が流れる中、剛がケーキを木村の前に運ぶ。
「こちら、パティシエ慎吾の久々の作品でございます」
「72時間も番組した後で、ありがとうございます」
白いケーキの上に、フルーツやソースで鮮やかなデコレーションが作られている。
「面白さよりも、純粋に美味しさを追求しました。木村くん、そんな甘いの食べないから、ベースはチーズケーキにして」
「ありがとー」
「で、そのケーキに」
中居が真面目な顔でやってきて、木村の手に恭しく細長い色鮮やかなキャンドルの束を渡した。
「挿して」
「これ全部!?45本!?」
「手伝う手伝う」
「待ってよ中居くん!そんなのこの常識的なサイズのケーキに挿せる訳ないじゃん!ケーキ無くすつもりなの!」
ちっ。
慎吾に言われ、舌打ちした中居は、4と5のキャンドルをケーキの上に置く。
「おまえ、なんで今舌打ちした!?」
「無くなればいい。事前にちゃんと用意されたケーキなんか無くなればいい…!」
「引きずるなよ!おまえの誕生日を!」
「フルーチェすら用意してもらえなかった俺は…」
「悪かったって!」
「中居くん、ほら火つけて!」
後ろからチャッカマンを渡された中居は、かち、っと火をつけて、じっとその火を見つめ。
「燃えろ燃えろ…」
「やめろやめろー!」
「おまえらのSNSなんか炎上すればいい…!」
「やめてー!つよぽんとかシャレになんないかもしれないんだからー!」
「いや、意外と草gちゃんとしてる。おまえ、吾郎、おまえこないだ位置情報つけたろ」
「…だから。なんで中居くんがSNSに詳しいの」
「プロ野球選手じゃなくても、プロ野球については語れんだよ」
「中居くーん!火ぃつけてー!ケーキ切れなーい!」
「ちっ」
「だからなんで舌打ち!」
舌打ちしながらも、4と5のキャンドルに火をつけ、部屋の明かりも落とし、じゃあ、歌をという流れで。
「はっぴーばーすでーとぅーゆー!はっぴーばーすでーとぅーゆー!はっぴばーーすでーー!」
「それはスティービーワンダーでしょうが!ここはSMAPでしょ!」
「だって有名度合いで桁違いじゃん」
「当たり前でしょ!なんで、スティービーワンダーとSMAP比べてんの!」
「俺ん時、こんなちゃんと曲まで用意されてなくって」
「だから、おまえサプライズとか嫌いかな?と思って!」
「それだよ木村くん!」
「どれ!!」
「その、『中居はサプライズが嫌いじゃないか?』という空気を読む感じ?思いやってみてる感じ?それこそが、今日のこの地獄を招いてるんだよ!」
「うん?え?なに?地獄?」
「あの夏の日、僕たちがそれぞれに中居くんの気持ちを忖度したばっかりに、あんなことになった。空気なんか読むからだ。ストレートに、やりたいことをやるべきだった」
『いや、大がかりにやられたらイヤはイヤなんですけど』
内心そう思っても黙っているのが中居だ。
「だから、木村くんの誕生日は普通にやりたいようにやるし、ケーキもプレゼントも用意してるし、ついでに」
慎吾いいこと言う、という感じで、上品に手を叩いていた吾郎に、慎吾の目が向く。
「来月の吾郎ちゃんの誕生日もちゃんとやるから!」
「えっ!それはいい、それは!」
「だって、吾郎はひろくんとごろちと二人でやるんじゃねぇの?」
そう木村が言うと、中居が首を振る。
「こいつは、ひろくんを隠れ蓑に、女優とデートするようなやつだよ」
「ある!そういうとこある!こいつ!」
「ごろさん、あれじゃなーい?72時間でお世話になった、あの、結婚式やってくれた子とか、スタッフさんとか、誘うんじゃなーい?」
「草なぎー!」
中居が剛の背中を叩く。
「それだ。女優だと話が大袈裟になる。身近でリアルな綺麗所を揃えるつもりだ」
「え、見に行こうぜ、当日」
「来ないで!やらないけど!やらないけど、とにかく来ないで!」
「来たんじゃない?これ。YouTuber草なぎの大炎上動画がくるんじゃない?」
「よかったなぁ。世界一が『森くん』だけじゃなくなるかもしれないなぁ」
「だから、なんで中居くんそんな詳しいのっ」

その後、話は延々続き、火をつけられたキャンドルは消え、ケーキは温くなった。慎吾からの小さな絵画作品、吾郎からの気軽に飲める木村好みの赤ワイン、剛からの(バカ飼い主の音声が大量に入った)くるみ動画入りBlu-rayディスク、中居からのいくらあっても困らないパンツと髭剃りが渡されるのは、それから4時間半後のことであった。

そんな愉快な誕生日だと面白いですね。
木村拓哉様、お誕生日おめでとうございます!

2017年11月13日

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