「お疲れ様です」
「お、お疲れでーす…」
9月9日、その前日、初めての退職を終え、とはいえ、別にただ契約が満了したというだけで、何が具体的に変わったのかな?くらいの気持ちでいた、稲垣吾郎、草g剛、香取慎吾は、突如中居、木村からSMAP全体会議に呼び出された。
それぞれにオシャレ普段着で3人揃ってドアを開けたところ、部屋のレイアウトはいつもの全体会議とは違っていた。
「あの…?今日は何?」
空気は適切に読むが、気を遣い過ぎない、人として誠にバランスのよい正確をしている吾郎が、真面目な表情のいわゆるツートップに尋ねる。
「あ、どうぞ、お席に」
どういう訳かスーツ姿の木村が、部屋の角にしつらえられた演台から、どうぞ、と、部屋の中央に置かれたオフィスチェア三脚を三人に勧めてきた。
「え?今日なに?面接?」
慎吾が椅子に座り、演台の前の椅子に座っている、スーツ姿の中居を見るが、いやいや、と、中居は首を振る。
「どうぞどうぞ」
と、吾郎、剛にも座るように中居が言い、首をひねりながら二人も座ったところで。
「本日はお忙しい中ご参集いただき、誠にありがとうございます。これより、稲垣吾郎さん、草g剛さん、香取慎吾さんの退職に際し、記念品の贈呈を行いたいと思います」
「はっ?」
「それでは、SMAPを代表いたしまして、中居正広様よりご挨拶をちょうだいいたします」
「何!ねぇこれ何っ?」
慎吾の声を意に介さず、中居は真面目ーな顔で斜め後ろの木村に会釈し、木村も真面目ーな顔で会釈を返す。
そして中居が立ち上がり、センターに用意されていたスタンドマイクに行き、そこから延々マイクの高さを調節し続けた。
「始まる前にやっててよ!そんなことは!」
えぇい!と手を出して高さを合わせた慎吾に、真面目ーな顔で中居で会釈をし、演台から、木村も会釈する。
「怖いー…」
「えーーー(ハウリング)」
「だから!スピーカー調整してないギャグとかいらないから!マイクの音量でかすぎるから!」
と、マイクの電源そのものを切った慎吾に、真面目ーな顔で中居で会釈をし、演台から、木村も会釈する。
「これ、どこまで続くの…!」
「それでは、せっかくなので生声で行きたいと思います」
「お願いします、中居様」
しつこく真面目ーな顔で会釈し続ける木村と中居だったが、ようやく気が済んだのか、中居が正面に向き直る。
「えーーー!!」
「声高い!でかい!」
「えー、稲垣さん、草gさん、香取さん、この度2017年9月8日づけを持って、皆様がご勇退されることとなりました。長年にわたるご功績は、この場で語
れるようなものではございませんので、それぞれの胸の中で、あんなこともあった、こんなこともあった、警察のご厄介にもなった、みんなで笑った」
「雑誌撮影ー!」
「…木村くん…」
「楽しかったー!」
「ドームツアー!」
「楽しかったー!」
と、中居の後、木村が発声していたのだが、中居は、左手を耳に当て、右手をマイクを持っている体で、慎吾に突きつける。
「え…っ?」
「楽しかったー!」
「コールアンドレスポンス…?楽しかった…!?」
「楽しかったー!」
「えーー…っ、か、海外旅行ー!」
「楽しかったー!」
「僕もっ?えとえと…」
「楽しかったー!」
しかし、中居の手は、剛から、吾郎に移動していく。
「言わせてあげてよ!」
「楽しかったー!」
「えっと、SMAP×SMAP?」
「警察のお世話にー!?」
「なったよ!うるさいなっ!」
「警察のお世話にー!?」
「はいー、僕もなりましたー、ご迷惑おかけしましたー」
中居は真顔で電源の入っていないスタンドマイクの前に戻る。
「今後は、手が後ろに回るようなことがないよう、ますますご活躍いただけますよう心より祈念いたします。この度は、おめでとうございました」
「ありがとうございました。中居様よりの暖かい送辞、皆様涙を抑えることができておりません」
「目ぇカラッカラだよ!ごろちゃん、つよぽんなんか、コンタクトしてたら落ちるよ!」
「続きまして、記念品の贈呈式に移ります。お名前をお呼びしますので、呼ばれた方は、中居様の前にお願いいたします」
「よく分からないけど、敬称がなんかおかしくなってない…?」
「稲垣吾郎さん」
「あ、はい…」
敬称に文句をつけていたところで呼ばれて、中居の前に行くと、木村が賞状盆を捧げ持ち、中居の横に控える。盆の上に、何か色々と雑多な品々が乗っている。
「稲垣吾郎様。長年お疲れ様でした。今後も、芸能活動を続けられるということで、ますます女優さんと仲良くしていただけますよう、記念品を贈呈いたします」
「こちらです…」
「はい…」
木村が中居に盆の上のブックカバーのかかった本を差し出す。
「『やれたかも委員会』です」
「は?」
マンガを一冊渡されて吾郎がただただ戸惑う。
「あのときもしかしたらあの子とやれてたかも!というマンガですね」
「いらないよ!そんなの!」
「おめでとうございます。稲垣さん、ぜひ、色々ご参考になさってください」
「いらないし!」
パチパチと拍手する木村は、吾郎が座るや座らないやで剛の名前を呼ぶ。
「え、ごろさんマンガだと、僕は…」
「草g剛さん。草gさんのご活躍により、『g』という字が脚光を浴びたと聞いております。今後とも『g』とともにご活躍ください」
「こちら…」
「はい…」
盆の中から登場したのは、がっちりとした額縁。その中には筆文字で『g』の一文字が。
「…これは…?」
「中居様に揮毫いただきました」
「いらないよ!」
「まだいいよ!場合によったら売れるよ!中居正広の『g』!証拠があったらメルカリで8000円くらいにはなるよ!このマンガどーするの!」
「証拠はございませんので、転売はご遠慮ください。なお額縁は二万円ほどのものでございます」
「たっか!」
「香取慎吾さん」
「はーい」
色々諦めて、慎吾は中居の前に、無駄にぴしっ!とした姿勢で立つ。
「香取慎吾さん。入社時はあんなに小さかった香取さんも、しじゅうを越え、大変大きくなりました。成長率が今後とも正比例すると仮定すると、来年あたり必要になりそうな品で」
「こちら」
「はい」
安そうな紙袋を渡され、中居が慎吾に差し出す。
「モデルの石ちゃんが魅力的、サカゼンのスーツ、ざっと7Lでございます」
「い!り!ま!せ!ん!」
「でもこちらね、ガチで高いんですよね、木村さん」
「そうですね。スーツで4万ほどです」
「なんで僕だけマンガ!?いくらこれ!」
三人がぎゃいぎゃい言ってる中、木村が演台に戻る。
「それでは、以上で記念品の贈呈式を終了いたします。皆様、ご散会ください」
「終わり!?え!終わり!?」
「会議室のレンタル時間が来ますので、とっととご散会ください。そうじゃなかったら、会議机の原状回復にご協力ください」
部屋の横に移動させられていた会議机を動かしだした木村に、手伝いますよ!と、5人がかりで元、と思われる状態にして、稲垣吾郎、草g剛、香取慎吾の退職記念品の贈呈式は終わった。
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