2017年4月某日

「はい、じゃあ続いて。…」
生放送中の中居が、ふと視線を動かして一瞬止まった。
一瞬表情を失って、その後、ぐっと笑いをこらえる顔になる。
「あのー、テレビ見てる方は、どう思ってるか解らないんですけど、意外とね、意外とテレビってちゃんと作られてるんですよ。まして生放送は、編集ができな いので、ちゃんと段取りがあって、トラブルとか、アクシデントがないように準備して作られてるですね。この番組そういうことがないようにしてるんですけ ど、今、ちょっとね、トラブル…、っていうと、ちょっと違うんですけどー…」
そして、出演者の方をちょっと見る。カメラもそれについて、中居以外の出演者をうつした。
「ちょっと、びっくりしてるでしょ。ちょっとね…、あのー…ハプニングか、ハプニングがありまして」
カメラの奥に向けて、中居が声をかける。
「何やってんの!えっ?あ、ちょちょ!」
動こうとするカメラを中居が止める。
「ちょと待って、何?え?あ、ちょ、おまえもあんま声出すな!ジェスチャージェスチャー!でーきるって!え?『隣』?の『スタジオ』に?『おいといて』? おいとかないだろ!うん。おいとかない。収録だろ?『隣』の『スタジオ』だったら『収録』以外ないだろ。ちょっとあれあれ」
中居は、両手の人差し指で四角い形を作りながら、左右をきょろきょろする。
「それ、カンペのスケッチブック、渡したげて。書け書け」
画面の端で、スタッフがスケッチブックを持って移動する姿が映る。
「いや、ちょっとハプニングがね、少々お待ちくださいね。はい、はい書いたの戻ってきましたね」
スケッチブックを受け取って、書かれているものをさっと見た中居は顔を上げる。
「番組にも予算ってものがあるので、突然ギャランティが発生して、来週からゲスト半分とかになったら怖いんで、ちょっと字だけで」
どん!とスケッチブックがカメラに向けられる。右上がりの手書き文字が映った。
「『4月29日、映画無限の住人公開!受け取ってください』ということでね、ぜひ、皆さん映画館に足をお運びください。はい、じゃあ、映画無限の住人関係者の方!もういいですから。やりましたから。はい、はい。引き続き宣伝活動がんばってください。はい、はいーー」
ぺこっと頭を下げ、カメラにも、ぺこっと頭を下げ。
「生放送の司会は、最年少で紅白の司会をやらせてもらったりとか色々してますけど、なかなかのハプニングでしたね。皆さんね」
と、ゲストの方を向く。
「皆さんもね、自腹で映画館、足をお運びくださいね。じゃあ、まいりましょう、次のコーナーは」

その後の放送は、『ハプニング』の数十秒を巻き込んで、CM開始予定をずらせることなく、段取り通りに淡々と進んだ。

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