フレッツ市立ひかり中学校!

「おはようー!」
「おはようございまーす」

ひかり中学校、校務員、香取慎吾の朝は早い。毎朝、校門に立ち、子供たちを元気に迎えるのだ。
学校の先生になりたい、と子供時代は思っていた慎吾だが、残念なことに・・・。
大学生になるには、少々。
・・・少々、おつむが足りなかった。
しかし、むしろ今の仕事の方が、彼の希望にはあっていたかもしれない。授業以外のところで、子供たちを触れ合えるのが、慎吾には心地よかった。
「おはようございます」
その慎吾の隣を、几帳面に挨拶しながら通っていくのは、国語教師の草g剛。
「おはよー、つよぽん!」
「つよぽん、言うな・・・!」
「なんでよ、つよぽん」
そんな2人は幼馴染だった。
生徒たちから、慎吾ちゃん!と懐かれている慎吾は非常にフレンドリーな人柄なので、幼馴染の剛のことは、子供の時と同じつよぽん、と呼ぶ。
すると、それを聞いてた生徒たちも、つよぽん先生!と呼び始めた。
『先生』がつけばまだマシで。
「つよぽんって、呼ばれるんだからな・・・っ!」
「いいじゃん。親しまれてるってことでしょ?」
「ナメられてんだよ・・・!」
「そっかなぁ〜」
「慎吾ちゃん、おっはよー」
「おぉー、おはよー、今日早いじゃん!」
「いつも遅刻してるみたいに言わないでー、つよぽんもおはよーー」
「・・・おはようございます」
とても中学生には見えない、大人っぽい女生徒は、朗らかに剛のことを『つよぽん』を言い切って、去って行った。
「・・・ほら」
「・・・。だから、親しまれてるんだって!な!つよぽん!」
ばんっ!と、力いっぱい背中を叩かれ、剛はおっとっとと、よろけながら校舎に入って行く。

「あ、木村先生・・・」
体育教師、木村拓哉は、女生徒に呼びかけられ、さわやかな笑顔で振り向いた。
「おはよ」
「おはようございますー」
ぴっかぴっかの中学一年生は、ひかり中学校男前教師ランキング1位の木村に朝から会えて、ぽっ、と頬を赤くする。
「授業始まるから、早く中入れよ」
「はいっ」
女生徒はぴょこん、とお辞儀をして、中庭から校舎へと入る。
その姿をが見えなくなるまで笑顔で見送っていた木村は。

「う・・・・・・・・っ」

途端に口元を押さえて眉間にシワを寄せる。
「具合わりーーー」
昨夜、飲み過ぎていた木村だった。
「もしもしー、もしもーーし」
そんな彼が登校するなり、職員室から中庭へやってきたのは、理科準備室を目指していたからだ。
職員室から、建物の中を通って理科準備室に行くには、中庭をぐるっと回るようになっている回廊を通らなくてはいけないため、ショートカットしていた。
なにせ、男前教師ナンバーとしては、生徒にこんな顔を見せる訳にいかない。
はっきり言えば、早いとこ楽になりたかった。
「もーしーもーしーー」
「・・・んだよ、うるせぇな・・・」
理科準備室の窓には、暗幕のようなカーテンがきっちりとひかれていて、中の様子は見えない。しかし、そこに人がいることを木村は知っていた。
「クスリーーー」
「クスリ言うな・・・」
かなりドスの効いた低い声がして、カーテンの隙間から覗いた手が、窓のロックを外す。
「眩しっ!」
部屋の中にいた、理科教師中居正広は、大きく開いたカーテンから入ってくる朝の日差しに、大げさにのけぞる。
「加減ってものができないのか!」
「くーすーりー」
「人聞きの悪い・・・」
ひかり中学校、理系男前ランキング第1位の中居は、ファンの女生徒が見ると泣きそうな様子だった。
すなわり、むちゃむちゃだった。
「おまえ、泊まったの」
「おん」
白衣はよれよれで、どうやったらそこまで?というほどの寝癖が髪のみならず、顔にまでついている、というような状態で、中居は、ビーカーでお湯を沸かしていた。
これが、綿綿と続く、理科教師の正しき伝統である。
「あーー、だりーーー」
「学校泊まってさぁ、何やってんの、いったい」
「実験とか?」
「とか?とかって、何、・・・っぷ、それよか、クスリー」
「あのなぁ、理科室来て、クスリクスリ連呼すんな。ほんっと人聞きの悪い」
「だって、あれ効くじゃん。中居家秘伝の、なんか、飲み薬みたいな」
「おまえなぁ、平日にそんななるまで飲むかぁ?」
「もー、大変大変。校長が帰らない帰らない。多分、後から来るぞ。校長も」
「めんっどくせーーー・・・」
そういいながら、中居はインスタントコーヒーと、なにやら怪しげな液体の入った薬瓶を持ってくる。
「すんません、すんません・・・」
と、手を出した木村の手のひらに、ぽん、と置かれたのは。
「んーー、いい香りー、やっぱりビーカーのお湯って違うよねーー、ってこれコーヒー!」
「人にやるより、俺が飲むなきゃ・・・」
「おまえも飲みすぎかぁぁ!!」
飲みに行った帰り道、家に戻るより学校の方が早いともぐりこんだだけの中居だった。

こうして、裏の顔を持つ人気教師たちが、なにやら秘伝の液体を苦そーーな顔で飲んでいる時、一人さわやかな笑顔を浮かべていたのは、美術準備室でキャンバスい向かっている美術教師稲垣吾郎だった。
「あぁ、朝になっちゃったか」
ふふ、と微笑む彼は、実は、昨日の夜から、興が乗って興が乗って、帰れないままに絵を描き続けていたのだ。
「んー、朝の光の中で見た方が綺麗かな」
自らの作品に満足した吾郎は、大きくノビをして。
「おやすみーー」
ソファ(自費で購入)に横になった。今日の美術の授業は午後から。気持ちよーく夢の世界に入る吾郎だった。

<つづく>

(ま、そんなひかり中学校の先生たちかなーー、とか思いまして(笑))